
四の腕に四の刃 片や斧、片や剣、さらに槍、そして鎖の舞う刃 残る二腕には印が灯り、呪と結界が揺れる
それは殺戮であり、儀式であり、祈りであった
谷は深く、空は遠かった
赤子のような小さき肉が、岩の牙へと投げ落とされた夜、
風は鳴き、星すらその行いに目を伏せた。
「選ばれし者」の儀
六腕を持つ古の戦士の血を引く者に与えられる、
生か死か、魂の扉を試す試練である。
まだ名も持たぬ幼きその者は、五歳で奈落に沈み、
三年の闇を喰らって生還した。
骨は歪み、声は枯れ、
だがその瞳だけは、生の火を手放さなかった。
一族は彼を見下ろし、静かに頷いた。
「これは、刃となる」——。
時は流れ、ガドヴァットの名を与えられた少年は、戦士となった。
四の腕に四の刃。片や斧、片や剣、さらに槍、そして鎖の舞う刃。
残る二腕には印が灯り、呪と結界が揺れる。
それは殺戮であり、儀式であり、祈りであった。
大戦によって王国が炎に包まれたその夜、若き戦士は女王の影に立ち、敵を百、千と屠りながら、己の命を贄とした。
だが死は、彼を抱かなかった。
彼を待っていたのは、死の神。その神は彼の武を讃え、こう告げた。
「汝、選びて定めよ。骨を我が国の土とし、静寂と影の民として眠るか。
紅き誓いをその魂に刻み、冥府の焔を抱きし薔薇の盾たらんと欲するならば
代わりに永劫の炎をくれてやろう」
戦士は問わなかった。迷わなかった。その血には忠誠があり、その骨には誇りがあった。
こうして、彼は人にして不死となった。
炎を宿し、老いを捨て、六の腕に永遠を結んだ。
敵は彼を恐れ、味方は彼に祈る。彼の名は、戦神のごとく語られる。
しかし誰も知らない。静寂の帳が降りる夜、彼がたったひとつ残された人の心で、
何を見つめ、何を偲んでいるのかを。