霧が濃い。
小鳥や虫、ごく小さな動物の屍骸が、ある地点に向かって増えていく。
こんな夜は、あいつがまた迎えに来る……。
霧の多い薄暗い森。
その奥に、人々の安息の地があった。
生涯を終えたとき、自然のなかで大地に還ることを望む人々の安住の地が。
森の奥にある墓地を守る白装束の女性、アドニス。20歳くらい。 落ち着いていて感情を表に出さない。
彼女は他の墓守達とは違う。日々の手入れを通して、死者の魂と対話し、僅かな安息を与える事が出来る。
墓守のひとりである老人が、まだ若い青年だったころ、何処からともなく彼女は現れた。以来、変わらない姿で森を守り続けてきた。
この土地には、アドニスから大切なもの、命を奪った者たちが潜んでいる。
「夜を渡り歩く人々」は、人の命を喰らい「変異」させる屍者たちの呼び名である。墓所に眠る死者を同胞として迎え入れるために、彼らは隠れ家から姿をあらわす。
その時を見計らって、以前盗られた物を取り返そうとしているのだ。