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夜明けのヴラダ

その夜、ヴラダは生前以上の美しさと超然とした気品をたたえ蘇った

夫ディオーニが出張先で、事故に遭ったのだという知らせを受けて、元々悪化していたヴラダの肺はますます悪くなった。息をすることもままならず、意識も日々冒され、床に伏せるしかできなかった。

しばらくして見知らぬ来客があった。ディオーニと古い仲だというが、初めて聞く名だった。ラファエロと名乗るその男は医者であり、ディオーニを診たことをきっかけに友情を育んだという。

ラファエロは告げた。ディオーニからの伝言「今は会いに行けないが、必ず戻る」と。ラファエロはディオーニの隠された一面を知っていた。危険な仕事をしていて、今は身を隠す必要があるのだと。そして、ディオーニに何かあれば連絡が届き、すぐに妻のヴラダを助けて欲しいと伝えられていたのだと。

悪くない知らせに思えたが、ヴラダにはすでに夫の無事を喜ぶだけの力も意識も残されていなかった。虚ろな目からただ涙が流れるばかり。遅すぎたのだ。

ラファエロには数少ない心許せる友ディオーニとの友情があった。ディオーニから託されてあった写真とは似ても似つかぬ衰弱しきったヴラダの姿を目の前にして、友とその愛する者を守りたいと思った。

ラファエロは彼の血をヴラダに与え、彼女は程なくして息を引き取った。間に合わなかったもどかしさを抱え、葬儀を見守る。

その夜、 ヴラダは生前以上の美しさと超然とした気品をたたえ蘇った。