「屍者たちの嘆きを止め、安息の眠りにつかせるためには、女王と国が消滅する必要があるだろう」
クルートは生者の身体と屍者の軀をもち生まれた。頭からつま先まで、半身は人でありながら、半身は死の国の住人のものだった。
彼は子供の頃に、女王によって保護された。研究所の被験体として、また研究員として、メルソミニエに死の国の知見を多くもたらした。若き研究者ラファエロと出会い、ともに国の課題に取り組み、夢を語りあった。
クルートの半身が、妹の苦しむ姿と、叫び声とをとらえたのは、そんな矢先だった。
クルートと異なり、妹のエリシアは、父の血を強く継いだ完全なる生者であった。彼女が幼くしてこの世を去ってから、どれほどの月日がたっただろう。
メルソミニエの西に位置する海には、死の国へと繋がる門がある。この世の生命を終えた者が暮らす死の国から、門を越えて戻ってくる者がある。それらは屍者と呼ばれ危険視されていた。
しかしメルソミニエの女王は、死の国とその王を愛し、西の海からやってくる屍者たちを厭わず迎え入れている。彼女の擁する屍者軍は、規模を拡大し続けている。
その一方で、ただ増え続ける屍者たちを抑制するために、女王は、西の海とメルソミニエの地との堺にある嘆きの谷に結界をつくった。戦力にならない屍者、そして谷を越えられないほど幼ない屍者を、谷底で永遠に焼き尽くしていた。
そしてクルートの妹もまた、いまだあの頃の幼い姿のまま、死の国から甦り、西の海の門を超え、メルソミニエに引き寄せられながら、嘆きの谷底の永遠の炎に囚われている事を知ったのだ。
クルートは女王に絶望し尽くした。
そして、信頼し合っていたラファエロを欺き、研究所を出る手助けをさせた。街へ降り立ったクルートは屍者たちを集め、エリシアを救い、女王とこの国を滅ぼすことを誓った。