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宵闇の医術師ラファエロ

自分が解き放ってしまったのは、魔物だった。ラファエロの怖れは日に日に増していた

海が見たい、とクルートは言った。研究所で一生を終えるのは嫌だと。

しかしその親友の裏切りによって、ラファエロはメルソミニエの研究所を追われることになった。医術の国であり彼の故郷でもあるこのアルテシアに逃げ込んだ。しかし高名な屍者研究所であるMRIUS(エムリアス)を違反行為で解雇されたラファエロに対し、アルテシア医師会は医師免許を停止した。

そんな自分が隠れるように住むこの路地には、医療を受けることすら叶わない人々が暮らしている。何かしないわけにはいかない。ラファエロが始めた診療所は、訳ありの者たちが集う場所となっていた。

この街に戻って来てから、どれほど経つだろう。

このところクルートの噂をよく聞く。屍者たちの組織、暁霞の旅団の2番手になった者が死者の国と未来を視ることができると。

彼らによって「変異」させられた生者もいる。仲間に加わり、あるいは正気を失って犠牲を撒き散らしながら滅びた者も。

クルートに心酔する者は後を絶たない。人々に忌み嫌われた屍者たちが集まり旅団は規模を増した。

自分が解き放ってしまったのは、魔物だった。ラファエロの怖れは日に日に増していた。